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そうだ歌舞伎にいこう

歌舞伎を観続けて10年。見どころ、見るべき歌舞伎のレポートをお送りいたします

4/21赤坂歌舞伎『夢幻恋双紙(ゆめまぼろしかこいぞうし)-赤目の転生』-見るべき新作歌舞伎。狂った赤目の勘九郎丈に父の面影を観る。経年劣化の女のやつれを恐ろしく心に焼き付ける七之助丈。

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今回レポートする作品は赤坂歌舞伎『夢幻恋双紙(ゆめまぼろしかこいぞうし)-赤目の転生』中村勘九郎丈、中村七之助丈を中心とした、赤坂ACTシアターでの歌舞伎です。

少しネタバレが入りますので、気になさる方は見ないようにしてください。

 

 

  

 

Believe と申します。

舞台及び、映画を見ることが大好きです。

 

一部の舞台についてはレポを書いていたのですが、歌舞伎についてはレポを書いておりませんでした。しかし昨日、やはりこれは歌舞伎もレポートしなければという作品がありましたので、歌舞伎レポを書かせていただきます。

 

今回レポートする作品は赤坂歌舞伎『夢幻恋双紙(ゆめまぼろしかこいぞうし)-赤目の転生』中村勘九郎丈、中村七之助丈を中心とした、赤坂ACTシアターでの歌舞伎です。

 

通常の歌舞伎座での歌舞伎よりも、みんなが楽しめる歌舞伎が赤坂歌舞伎の特徴ですね。

しかも今回は蓬莱竜太さん書下ろしの新作歌舞伎です。

 

あらすじ

江戸時代、子供たちが遊んでいる。剛太(市川猿弥)末吉(中村いてう)静(中村鶴松)。剛太と末吉はきれいなお姉さんの歌(中村七之助)に夢中なのが、静は面白くない。みんながちやほやしてくれていたのに歌が来てからはみんな歌のことしか話題にしない。「のびろう」とみんながバカにしている太郎(中村勘九郎)ですら歌を気にしているのだ。明るく健気に生きる歌を見ると周りが明るくなる。そんな歌は病気の父親片岡亀蔵)とやくざものの兄源乃助(中村亀鶴)を支えていかなければならないという過酷な毎日の中を生きていた。太郎はつらい生活の中で心を汚していく歌を見ながら、寄り添い、助けて生きてきた。歌の父親が死んだ日、太郎は歌との結婚を申し出る。それから二年、太郎は働かず、ぶらぶらしたままで暮らしは良くならない。歌は家を出て、源乃助から脅されて引き受けた仕事はお金や死体を埋める仕事。怖くなって逃げようとする太郎は源乃助ともみ合いになり、刺されてしまう。いいところのなかった人生。目が覚めると、そこは遊んでいたあの場所だった。いつもの仲間、歌。あのころから太郎の人生がまた始まる。

 

今でもあるあると共感。落語のような物語

長屋のお話。なんだか、おとぎ話か落語を観ているような面白さがあります。最初に出てくるのは

剛太

末吉

そしてのびろうと呼ばれる少年の太郎

 

これって、つまりはドラえもんのキャラクター。もうこれだけで、この人達のキャラクターって日本人なら一発でわかってしまいます。蓬莱さんのすごいところは、この大抵の人がもっている「あるある」知識と感情をとてもわかりやすく、でもちゃんとドラマチックにみせているところです。

 

のびろうこと、太郎は、つまりのび太のことですから、とにかくダメな奴だろうと。しかもドラえもんのいないのび太ですから、とにかく生活力のないダメダメな奴として描かれます。そういう前提がすでに観客全員に刷り込まれている。人間こういうダメな奴は幸せになれないよね(ドラえもんがいない限り)と思いながらお芝居をみるのです。

 

案の定、ダメなままの人生で、女房にも愛想をつかされて逃げられる。「こんな貧乏な人生じゃなかったらな~」と思って死んでいく太郎。

 

そこで次の人生がやってきます。「貧乏じゃない生活」が。貧乏じゃなければ幸せに暮らせるんだよね?という意地悪な質問が次の人生に投げかけられます。なんか偉そうに「人生金じゃない」なんて言われるよりも、太郎の顔つきをみてすべてがわかってしまう。こういう顔を見て人生は幸せなんだろうか。と自分自身に問いかけてしまいます。クリスマスキャロル的な寓話的なシーン。

 

しかしそれだけで終わらないのが、蓬莱脚本の怖さです。じゃあさ「いい人になればいいわけ?」ここからの展開がとても歌舞伎的。いい人になって、最も欲しいものが手に入ったのか?自分の心が満たされたのか?そしてもし、その答えがNOなら、人はどうなるか?欲の向こう側を描いていきます。

 

いや~、すごい。この話。ぜひこれ、どなたかに落語でもやっていただきたいですね。自分の想像の世界で映像を作ったらこれまた違う怖さがありそうです。

 

 

 

経年変化表現の見事さ

演出の中で見事だと思ったのは、歌ちゃんが明るくはつらつとしていた少女から、過酷な日常によってみるみるやつれていく経年変化の見せ方。スタジオジブリかぐや姫の物語』みたいなアニメのようにやつれていくマジック。ここには七之助丈の演技も冴えています。

 

グサッと刺さるセリフ

蓬莱さんの脚本のすごさは気持ちが爆発した時のセリフの鋭さです。

歌ちゃんが、ぐうたらする旦那の太郎に向けていったセリフが

「お願いだから尊敬させて」

この中に込められた、信頼したいけど、信頼できず、励ましたいけど、その未来が見えない。かと言って、ここまで添い遂げた夫を罵倒はできない。ただ、今限界だということを伝えたい時に出た言葉がこれ。こんなセリフどこで思いつくのだろうと思える切れ味。これを口にする七之助丈にもぐっと来ます。

 

飛び道具の亀蔵丈はここで爪痕を残してくれた

毎回毎回、記憶に残る歌舞伎役者、片岡亀蔵丈は、今回もやってくれました。瀕死のおやじからの血色のいい健康じいさんのふり幅の大きさ。そして最後にはちょっと泣かせてもくれます。血色のいい親父のゴルフの素振りがツボに入りました。

 

 

亀鶴丈も負けてはいません

影のある歌の兄、源乃助はこの物語のキーパーソンでもあります。ラストシーンまで来て、これまでの源乃助がなぜこう生きてきたのかがわかった瞬間にパカーンと頭が割れるような思いでした。亀鶴丈演じる源乃助の人生の背負い方の重さがズシーンと重い。と同時に間に挟まれる調子のいい源乃助はたっぷり笑わせてくれます。亀鶴丈の男前っぷりが存分に楽しめます。

 

そして静ちゃんの鶴松丈がかわいすぎる

あ~もうここ推しメンについて語るの辛くなるほどにかわいい。もうどこもかしこもかわいすぎる鶴松丈。しかも、今回はかわいいだけじゃない。今回の公演で確実に鶴松丈アップグレードしています。それはなんといっても汚れた女を鶴松君が演じていること。普段は清潔感のあるお嬢様を演じることが多い鶴松丈ですが、今回はきれいだったお嬢さんが、汚れたというところを演じてくれます。最初から汚れた女じゃなくて、途中で汚れちゃった感があるのが鶴松君の本来持っている清潔感からくるところですね。男のために汚れていく、ダメなOLのごとき、女の欲がまとわりついたところが、今まで以上に存在感を増しています。鶴松丈いいお仕事しております。

 

そして勘九郎君の狂い方

ラストのほうで、酒を飲んだくれた勘九郎君の目を観た時に、勘三郎丈の『水天宮利生深川~筆屋幸兵衛』を思い出しました。どうしようもなくなって自分の中に押し込めた時のつらさが狂気に変わった目。ああ、やはり勘九郎君は勘三郎さんの息子さんなんだなと胸が熱くなりました。そして、この目を観るために歌舞伎を観てるんだと再度実感。これは歌舞伎なのか?ともし言われたら、これは歌舞伎だと断言できます。江戸から平成まで変わることのない、説明のつかない感情が役者の体からしみだしているのは、まぎれもなく歌舞伎だから。

いい作品を観ることが出来ました。

 

赤坂ACTシアターは大きな劇場なので、密な人間関係を描こうとすると、舞台上に余白ができてしまうところが少し残念。逆に言えば、よくぞこれだけ広い舞台でこれだけ人間関係にフォーカスして強い熱量を生み出すことができたのは驚異的とも言えます。歌舞伎初心者でも歌舞伎オタクでも満足できる作品です

初心者おすすめ度(5つ星満点):☆☆☆☆☆

 

作品データ

演目

『夢幻恋双紙(ゆめまぼろしかこいぞうし)-赤目の転生』

公演日

2017年4月6日―25日

会場

赤坂ACTシアター

演出

蓬莱竜太

脚本

蓬莱竜太

出演

太郎 中村勘九郎

歌 中村七之助
剛太 市川猿弥

静 中村鶴松

末吉 中村いてう

源乃助 中村亀鶴

善次郎 片岡亀蔵

中村勘之丞、中村山左衛門、中村小三郎、澤村國久、中村仲之助、中村仲四郎、中村仲助、中村仲弥、中村仲侍、市川裕喜、土橋慶一、宮脇信治、後藤忍、遠藤崇之

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